GRist

GRist 糸井重里さん<前編>

2013-10-30

こんにちは、社員Nこと野口です。
さて、今回のGRistは、あの、糸井重里さんです!
糸井さんは、初代GR DIGITALからGRを愛用していただいており、2007年発売の写真集「GR SNAPS」にも参加してもらいました。ブイヨンの写真を毎日サイトに掲載する "撮る人" であり、写真に関するいろんなコンテンツを "考える人" "作る人" でもあり、写真好きでたくさんの写真集や写真展を "見る人" "伝える人" でもある。そんな糸井さんからどんなお話が聞けるか?と、わくわく&ちょっと緊張気味に、表参道にあるオフィスを訪ねました。

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~内容盛りだくさんのため、今回は特別に2回に分けて紹介します~
 【前編】 『ほぼ日』運営の巻
 【後編】 カメラ&写真の巻

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【前編】 『ほぼ日』運営の巻

■『ほぼ日』フォーマット

野口:今日お話を聞きたかったことの一つが『ほぼ日刊イトイ新聞』(以下:『ほぼ日』)の運営についてです。

糸井:はい、なんでも聞いてください。

野口:僕たちがやっているGR BLOGは今年8年目になります。糸井さんがよく言われている「どんなことでも10年続けられたらモノになる」を目標に、社員有志でこれまでゆるゆると続けてきました。人事異動などで、今では僕も含めてライター全員がGR開発部門から離れていますが、10年までは続けてみようと、話しているところなんです。

糸井:うんうん

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野口:『ほぼ日』から学ばせてもらうことが、今までもたくさんあったのですけど、今日はせっかくのチャンスなので、『ほぼ日』流 "運営ルール" を教えて欲しいです。何かで、顔文字は使わないと最初に決めた、と読んだのですが、他にも内部ルールがあれば教えていただけますか?

糸井:そうですね、不文律として無意識にやっているものがあるかもしれないですけど、はっきりと決めているのは「27字詰め」ということです。

野口:27字詰め?

ABCP8226.jpg糸井:はい、『ほぼ日』用の決まった様式があるんです。基本は27字詰めで、しゃべっているリズムで適宜改行する。これは、一つには、びっしり詰まった文章よりも行毎にバラツキがあった方が、前の行を読み返すことがなくなって、読みやすくなるから。もう一つは、ひと目で見渡せる分量としてちょうどいいということ。これ以上長いとちょっと厳しくなるから。

野口:なるほど、あのリズム感はそういうところから出ているんだ。「27」という文字数は糸井さんの経験から導き出されたものですか?

糸井:ほぼ日を始める前に研究したんです。自分のところのスタイルをどうするか?これは先に決めておこうと思って。フォーマットってとても大事なものですから。

野口:サイトを立ち上げる前に、まずフォーマットを決めるところから始めた、というのは、とても糸井さんらしい取り組み方ですね。

■リズムやトーンより大切なこと

野口:実は、次の質問は「『ほぼ日』の文章のトーンやリズムの統一感はどのように作られて行くのか?」だったのですけど、その秘密の鍵がフォーマットにあったんですね。でも、それだってすぐに誰もができるものではないでしょう?

糸井:他の会社でそれなりの訓練を受けていたり、学生であればまだ言葉遣いが出来ていないということもあるので、最初はしばらく先輩が直す時期があります。いわゆる赤字入れですね。うちは、編集以外の人でも書けなくてはいけないので、だいたい誰かが直します。初期の頃は僕がやってましたけど。

野口:それで、どのくらいの経験を積めば独り立ちできるものですか?

糸井:これはまあ、言いようなんですけど、今日の明日にも独り立ちできます、理屈から言えば。それはなにかと言えば「ウソをつかない」ことです。

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野口:ウソをつかない・・・

糸井:そう、うまいヘタじゃないんです。ウソをつくというのにもいろいろあります。思ってもいないことを、よく言われる言い方だから書いちゃう、というのもウソの一つです。そういうのがあると、みっともないといって、直します。使い回しとしては古いけど、わかっていてそれを選んで使っている、というのはいいんです。そういうのは、文脈からわかりますからね。なので、セットフレーズを全部否定をしてるわけじゃありません。

野口:写真でも、セットフレーズ、たくさんあります。魅力や感動を伝えたいときなど、あまり考えもせずに、評論家の使っていたフレーズをそのまま使っているとか。

糸井:それがピタッと重なっている場合は、嫌みにならないと思うんです。ただ、半端なプロ意識を持っている人が、そういうセットフレーズたくさん持っていて、それを出し入れして組み合わせて使っているのを見ると、違うよなと。僕らはそれを「FMしゃべり」っていうんですけど。

野口:「FMしゃべり」ですか?

糸井:「外は雨、窓の外にはカップルが傘をさして歩いてる、私は今日も1人でここで話してる、寂しいなぁ、さあ次の曲」みたいな。思っていないだろうって。(笑)そういう「FM喋り」は、うちでは結構叱りますね。

野口:綺麗だけど、何も心に刺さらないで、流れてしまう言葉ですね。商品カタログのボディコピーでも、よくあります。文字が並んでいるけど誰も読まない、壁紙のような文章って言ってます(笑)

ABCP8316.jpg糸井:AMは、パーソナリティが立っているのでそういうことは少ないですね。FMは放送作家のセットフレーズの固まりのようなものを、アナウンサーが一人称で読んでいる。そういうのが多いという印象ですね。

野口:その他で嘘をつかないというのは?

糸井:お店や商品などを、自然に褒めなくてはいけない、みたいな書き方をしていると、それもみっともないですね。ほんとに思ったの?って突っ込むことがあります。これもウソ。

野口:BLOGの記事では自社商品でも気に入らないとこがあったらちゃんと書いていいよって言ってます。そうじゃないと、商品ページと変わらなくなってしまうし、やっている意味がなくなってしまうので。

糸井:真剣に本気で向き合っているか?どんなうまくまとめても、それは伝わっちゃものですからね。

■コンテンツの作り方

野口:では、次に、コンテンツについて教えてください。僕たちBLOGメンバーは、糸井さんがよく言われている「コンテンツの力を信じる」を座右の銘のようにしてやってきました。アクセス数を増やすためのツールやテクニックを使ってみるとか、これからはTwitterだ、Facebookだ、LINEだ、とか、好意で提案してくれる人がたくさんいます。でも、そういうのは、少し遅れてついていく、くらいでちょうどいいかなと。良いコンテンツを作ることを、いつも中心に考えたいと思っています。

糸井:ほんとうに、コンテンツこそが大事だと思います。

野口:『ほぼ日』のコンテンツ、先日数えたら、1589ありました。きっと今日時点だともっと増えているでしょうね。社内では企画会議などもあるんだと思いますが、これはやろう、これはやらない、という基準はなんなのでしょう?

糸井:みんながやるからうちもやる、は駄目ですね。みんながやるんだけど、全然ちがった企画としてその人を取り上げるとか。あるいは、その人が全然違う事をやりたがってるとか。僕らが全然違う物を見つけたんでこれから口説いてみようとか。

野口:オリジナリティの部分ですね。

糸井:それから、組織票を当て込んだようなことはみっともないです。時々、外から来たばかりの人はそういうことをやりたくなっちゃうんですけど。

野口:今、女子カメブームだから女子カメ企画作りましょう!とか、鉄道ネタやっとけば外さない、みたいな鉄板ノリ?でしょうか。

糸井:それでね、今、他でも絶対やりたがってる事なんだけど、僕もやりたいぞってことも、実はありまして・・・、能年怜奈ちゃんのインタビューです。(笑)

野口:おお、まさに、時の人!

糸井:でも、絶対に他とは違うことがやれる、その自信があるんです。

野口:うーん、なんだろ、見てみたい。その逆もあるんですよね?みんなはやりたいって言っているけど、糸井さんがそれはちょっと違うよ、と言うような。

糸井:特集もので、この人とこの人をキャスティングした時に、「うーん普通だな」って言い方はよくしますね。

野口:それって、ほぼ却下って言っている感じですか。

糸井:そうじゃない糸口をもっている場合には、「普通だな」と言った後で、「何かあるの?」って聞きます。そこからディスカッションが始まる。うちは、誰かが提案して誰かが承認する、というやり方ではないんです。他人のアイデアを握りつぶすとか没にする権利はだれも持ってない。面白くするためにどうしたらいいかってことを、みなで考える。そのままだと何か面白くないんじゃない?と話しあっていく。これじゃあ、原稿書くときに苦しむよっていう助言も出てくる。
他所と区別つかなくなりそうなときなど。そんなことを、いつもわいわいと話し合ってます。

■心憎い仕掛け

野口:コンテンツから脱線します。まさに膝を打って感心してしまうような仕掛けも、いろいろありますね。例えば、週末のボタン。

糸井:ああ、ランダムボタン。

野口:あーいうセンスが心憎く過ぎて(笑) 誰でもできるのに、誰もやっていなかったこと。テレビや新聞と比べて、WEBは読者がポジティブに目的を持って関わる性格のメディアですけど、このボタンによってWEBらしい偶然性というか、思わぬ発見が生まれます。それをわくわくと楽しむことができる。これは乗組員の方からの提案ですか?

ABCP8284.jpg糸井:あれは僕のアイデアだったかな。つまり、過去のコンテンツを死蔵させたくなくて。どこ読んでも面白いっていうものにしたいのと、それを見てもらいたいのと。でも、たまに、ただの当選者発表のページに飛んじゃったりすることもありますけど(笑)

野口:もう一つ、眼から鱗って感じで面白く感動したのが、3、4年くらい前だったと思いますが、アンケートに答えて行くと、その回答が反映された、自分だけの暑中見舞いが、少し後で届くという仕掛け。

糸:ああ、それは、元ゲーム雑誌の編集をやっていた永田君のアイデアですね。

野口:読者アンケートであそこまで唸ったのははじめてです。というか、アンケートというとても実務的なコンテンツにさえも、こんな楽しませたいという気持ちが盛り込まれていることに感動したんです。種明かしされた後に、なんだかとても幸せな気持ちになりました。

糸井:忘れた頃に驚かせられたいという、「したい」より「させられたい」の気持ちが発端だったんじゃないかなと思います。

野口:僕はあの企画に、フイルムカメラの時間に通じるものも感じました。撮って現像されて見る。ああ、そうそう、こうだったって。数時間前のことなのに懐かしい。ここで再現できないのが残念ですが・・・

糸井:そうですね、全部、自分で答えたことなんですけど。ちょっとディレイがあることが、新鮮だったりしますよね。

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■いわゆる管理指標というもの

野口:ちょっと固めの話なんですけど、企画の善し悪しを図る指標として、科学的な分析ツールなど使っていますか?

糸井:科学的というレベルではないですが、アクセス数は毎日わかりますから、それはいつも見ています。結果、やっぱりなって言うのはあるし、逆もあるんです。これ駄目だろうなと思ってたら、ピョーンっていっちゃうみたいな。

野口:どうしんだ、なにがあったんだ、って感じ(笑)

糸井:それは愉快ですよね。残念とは思わない。そして、理由を探る中で、次何かやるときのヒントが見つかる。たまたま関係した人が事件起こして跳ね上がっちゃう場合もあるし、いつも興味深く見てます。偶発性みたいなものは、最高のごちそうですよね。

野口:特別なことではなく、ベーシックなところをよく観察しているということですね。 僕たちも、アクセス数やトラックバック数の推移くらいを見てますが、あまりそれだけで一喜一憂はしないようにしています。

糸井:あ、あと、メールとかツイートの数が、多い少ないとかも見てる。それは、良い悪いというよりも、やはりムードとして高まりますから。

■『ほぼ日』の目指すもの

野口:『ほぼ日』は、これからどこに向かうんでしょうか?もはや新聞という言葉だけで表せるものではなくなっています。ゴールのイメージみたいなものがありますか?

糸井:なんでもいいんですよねぇ。自分たちが嬉しくて、関わった人が喜んでくれれば、新聞だろうが遊園地であろうが、ほんと、なんでもいいんです。その中で、よく、もう一つ何かやりたいね、という時に出てくる言葉が、"ほぼ町"です。

野口:"ほぼ町"・・・現実の町ですか?イベントやったりモノを売ったり人を紹介したりと、すでに『ほぼ日』が"町"であるように感じますが。

ABCP8314.jpg糸井:それが、もっとリアルな町とつながるのも面白いかもしれないなと。ミシシッピの下流のブルースの町とかあるじゃないですか。あれって、何時から何時までこの店で演奏してますよとか、ウェーターさんも実はバンドマンだったり、お客さんも元バンドマンだったり。みんなが音楽というコンテンツなのかメディアなのか、それを巡って集ってきます。そしてそれで飯が食えている。下北沢も劇団の人が多くて、お店の店員さんも劇団関係の若者だったり。そういう変化していく活気というものを作って行くことが、NETかリアルとか問わずに出来たらいいなと思います。

野口:僕たちも、ささやかですけど、リアルを大切にしています。ブログだけで完結させるなら、ファンの方のサイトとあまり変わらない。手間がかかっても、どこかでリアルなものと連携していこうと、例えばそれがオフ会だったり。

糸井:リアルはとても大切です。眼と耳と指先だけで完結してしまうようなことって、あまり健康的ではないような気がします。特に、東北の支援の手伝いを始めてから、丸ごとで付き合わないと人と人って無理だな、と実感してます。

野口:気仙沼に"ほぼ町"ができる日も遠くないかも?

糸井:そう簡単じゃないですけど。気仙沼では、今、ツリーハウス(樹木の上の家)を作り始めています。それがひとつやふたつじゃなくて、100個もできたら、その「ツリーハウス群」を観光にいく人が増えると思うんです。他人同士が、ツリーハウスを見に行って、たがいに「やぁ」って挨拶するようになって・・・、なんてことを夢みてます。

野口:それは、めちゃくちゃ楽しみですね。

~さあ、写真カメラの話へ 後編に続く~  後編はこちら

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糸井重里(いとい・しげさと)プロフィール

群馬県生れ。1975年TTC(東京コピーライターズクラブ)新人賞受賞。1980年代に「不思議、大好き」「おいしい生活」などの名コピーで一世を風靡。コピー制作、作詞、ゲーム制作、文筆など幅広い分野で活躍を続ける。1998年には「ほぼ日刊イトイ新聞」(略して『ほぼ日』)をインターネット上に開設。近著として、和田誠さんと糸井の共同編集で『土屋耕一のことばの遊び場。』が発売された。

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