こんにちは!管理人のまちゅこ。です。
今回から新しいインタビュー企画をスタートします。
『Around Photography』と題して、ギャラリー運営されてる方や、出版社の方、キュレーター、評論家など、「写真」に関わる仕事をされている方々に、それぞれの立場での「写真」の見方、期待、未来、などについて語っていただく不定期のコーナーです。
「写真」が文化として世の中に存在していくためには、写真家さんだけではなく、さまざまな立場の方たちがそれぞれの立場で「写真」と関わり、“写真のチカラ”を伝えていくという活動が不可欠です。
この企画が、そんな方たちの活動を少しでも知ってもらえる場になり、それぞれの場所が活性化されるきっかけの一つになってくれたら嬉しいです。
初回は、写真家でありながら、自主ギャラリーを運営されている中藤毅彦さんを、まちゅこ。が取材させていただきました。
写真展「Winterlicht」(2020年10月10日〜18日) の作品展示の様子
インタビューは、10月中旬。
中藤さんの運営する「ギャラリー・ニエプス」にて、ご自身の写真展(「Winterlicht」2020年10月10日〜18日) の開催終了後、作品撤収前におじゃましてお話しを伺いました。
ー 中藤さんは、この「ギャラリー・ニエプス」を運営してどのくらいになるんですか?
ギャラリーを始めて20年、この場所(四ッ谷)に移ってからは18年になります。ここはもともと「PlaceM」というギャラリーだったんですが、僕が初めて個展をやらせていただいた場所なんです。まだ学生の時ですね。その同じ場所でギャラリーを運営することになった巡り合わせは、感慨深いです。
ー ご自身でギャラリーを始めるきっかけはなんだったのでしょうか?
大きなギャラリーでは、審査含めて展示するまで一定の時間が必要です。もちろんそれだけの価値もあるのですが、そういうものとは違う、リアルタイムな実験と発表の場を持つことに意味があると思いました。きっちり作り上げたものでなく、未完成な状態のままの“撮って出し作品”のような感じで。そこが自主ギャラリーならではの持ち味、面白さだと思います。
ー なんか、テレビにたくさん出ていても、ラジオを好んで続けるアーティストに通じる感じがしますね。以前は代官山だったそうですが、ここ(四ッ谷)に移られて、なにか変わったことはありましたか?
このあたりは自主ギャラリーが多いエリアということもあって、フラッと入ってくるというよりも、目的を持って観にきてくれる写真好きな人が多い印象ですね。なので、より目が厳しくなったとも感じています。
現在、一般の展示希望の方には料金をいただいて、1週間単位のレンタルをおこなっていますが、基本はメンバー制(月額)にしています。会員はギャラリーが空いていれば、いつでも思い立った時に展示ができるんです。
ここを拠点に活動している作家の中から、更に大きなフィールドで活躍する写真家が育てばいいなと思っています。
会員の条件は、これまでに一度はここで写真展を開催した事がある事と、加入したら最低2年はメンバー活動を続けてもらう事、それと、年に一度の合同展に参加する事などで、いつでも募集中です。今は8人ですが、これまでメンバーは流動的に少しずつ入れ変わってきました。
ー 実際にここから育ったというような方はいらっしゃるんですか?
写真集を出した作家は何人もいますし、清里フォトミュージアムの公募企画ヤングポートフォリオで何回か連続で購入された作家も数名います。そういう意味では育ちつつあるのかな。もっとビックになっていって欲しいですけど(笑)
妻もメンバーなのですが、ここで写真展を開催した時に、グラフィックデザイナーの長尾敦子さんの目にとまり、彼女のプロデュースで、ふげん社と言う出版社からの企画で写真集が出版されました。とてもありがたい展開でしたね。
ー 写真を撮っている人なら、一度は個展を開いてみたいと思う人も多いと思うのですが、なかなか踏み出せない難しさがあると思います。SNSにアップしてとりあえず満足して終わる、とか。そんな中、プリントした写真を見せることの価値というか、そこをあえて言葉にすると?
物質として「紙」である意味は大きいのですが、なによりこのギャラリーは、お客さんと作家本人がかなり近いんですよ。そこで対話が生まれ、リアルな感想が聞けること。少人数でもディープな会話があって、そこで気づかされることが多いというのが、自分にとってはとても大きなことなんです。
ー 確かに、ここは入れ替わり立ち代わりで人が来て、座って写真集見たり、中藤さんと話したり、すごく気軽に過ごされていますもんね。
そうなんです。こんな風に椅子をおいて、気軽に座って話せるようにしてあるのは、そういう意図ですね。自主ギャラリーはそういう部分がやっぱり持ち味じゃないかな。
だいたい、作家本人が店番していて、みたいな(笑)
メーカーギャラリーやコマーシャルギャラリーなどでも展示して実績を積んでるような実力者の方や、ハービー・山口さんや大西みつぐさんみたいな大御所の方もここで写真展をやってくれるのは、こういう自主ギャラリーでやる面白さというものを感じてくれているのかなと思いますね。
写真展「Winterlicht」(2020年10月10日〜18日)を観に来た方とお話し中
ー 反応だけならSNSの「いいね」でも得られますが、「いいね」の意図というか、中身はわからないですもんね。
リアルに生身のお客さんが「顔」をさらしてきて、実際の言葉を交わすのとは全然違いますね。“こう思いました”、で終わるのではなく、“なんでそう思ったんですか?”とすぐに聞ける。さらに深く話ができる。そういうやりとりから関係が濃くなっていくことが、財産になるんです。
ー 「紙」になって初めて気づくこともありますよね。
膨大な量の写真データが消費されて消えていくけど、やっぱり紙は残っていくものだと思いますね。こうやって、紙で展示して、その紙を買っていくお客さんもいるし、それを大事に飾ってくれる人もいるので。
ー 自主ギャラリーをやっていることで、ご自身の作品に影響したりもしていますか?
ここで店番していると、自分自身もお客さんみたいな気持ちになるというか。自分の写真に囲まれて過ごしていると、いろいろ粗も見えてくるというか(笑)
今回の写真展みたいに自分を振り返るような過去の展示もしますが、ここはこれから何を撮っていくか、その“これから”を見せていくことができる実験の場所だと思っているんです。
これはあくまで僕自身の使い方ですけど、さらに大きい発表に結び付けたり、写真集に結び付けたりという風に、この場からより進化していければいいなと。
僕はおかげさまで、いろんな場所で写真展を開催できるような立場になったんですけど、あえてここを維持して、ここで写真展をするっていうのは、自分の原点に立てるということもあるかなと思いますね。
ー ギャラリーの運営方針を決めたり、メンバーで情報を共有したりはされているんですか?
方針はあえて決めず、お互い口出しもしないようにしています。あくまでも、ここは場=プラットホームです。必ず完成形の展示をして、それが大成功で、というのが良いことではないと思うんです。コケたらコケたで、それがいい経験になって得るものがあればいい。それがこの場所の役割ですから。そういう中から、お互い刺激されることもたくさんあります。
ー 運営していて大変なことはなんですか?
運営を継続するために必要な収益をあげることが、やはり一番の苦労です。そもそも、儲かるものではないですし。その中で、今回のコロナ禍の影響は大きいです。会費だけでは家賃にもならなくて。維持するためにはメンバーを増やすか、レンタルを増やしていくこと。稼働率を高めていけるようにしていくことが今後の課題です。
ー 今後、やってみたい企画とかありますか?
今度、香港をテーマにした僕の写真展を「禅フォトギャラリー」でやるんですけど、それと同じ時期に、香港を撮っているキセキミチコさんと初沢亜利さんの写真展をここで連続でやるんです。
違う場所でやることで、響きあうような写真展にしたいなと。
そんなふうに、小さなギャラリーが連携した同時多発的な展開が、もっと増やせたら面白いなと思っています。
ー GRで撮られていた、去年の香港ですね。
2019年の香港を、3人がそれぞれの切り口、撮り方、考え方で撮ったものが、同じ時期に別々の場所で開催することで、立体的に見えてくるものがあると思います。
できれば、3つ全部足を運んでほしいですね。そうすることで、それぞれの違いが見えてくると思うし。その結果、実際の香港はどうだったんだろう?ということを考えてもらうきっかけになったらいいかなと思います。
ギャラリーを運営しているからこそ、取り組めることかなと。これも、一つの実験です。
ー いままでここで実施された写真展で、印象に残っている写真展ってなにかありますか?
2つありますね。
東日本大震災のときにここで写真展をやっていたんですよね。その日はここに寝泊まりして。お客さんも泊まってる人もいて。なんか、すごいなと思ったのは、大きく揺れたあとにもお客さんが2人くらい観に来たことですね。普通に観に来て、写真の感想を言って、帰っていったので、なんだかありがたいのかなんなのか、、、なんだか不思議な感覚でしたね。
そのあと、「White Noise」という写真集の写真を撮るんですが、震災ということが自分の中で強烈な出来事・体験として原点にあったので。そういう時に自分のギャラリーで写真展をやっていて、震災をここで体験したことも含めて、なんだか運命なのかなという感じがしています。
あともう一つは、この「ギャラリー・ニエプス」で1年で12回連続(月に一回)写真展をやってくれた、内野雅文くんという友人がいまして。彼は30代前半という若さで亡くなってしまったんです。1年間京都を撮ると言って、京都にアパート借りて撮っていたんですけど、大晦日の夜、京都の神社を撮影中に心臓発作で、、、。その彼の追悼写真展をここでやったんです。
この場所があったからこそ出会えた人であり、また彼の作品そのものはもちろん、作品への向き合い方など、僕が彼から教わったことも測り知れないです。
このギャラリーが繋げてくれた大切な友人であり、写真を愛する同士として、とても大切に思っています。
ー 最後に、自分の作品を発表したいと思う人たちに向けて、なにかひとことメッセージをお願いします。
僕は写真家でありながらギャラリーを運営している、という身なので、そういう目線になってしまうかもしれませんが、特に本気で写真家を目指す人は、小さくてもいいから、まず個展をやるべきだと思います。写真教室やワークショップでは学べない経験がたくさん待っています。もしかしたら、グループ展を10回やるより、小さな個展を一回やる方が得られるものは多いかもしれません。
そして、いろんな生の声を聞いて、喜んだり傷付いたり刺激をたくさん受けることが、必ず財産になります。
個展というと自分にとって100点満点の、完成したものじゃないとやれないと思いがちですが、さっきも言った通り、僕はここを実験の場だと思っています。完成形を見せなければいけない、と思わなくていいと思います。
もちろん、場所代・プリント代など決して安くはないかもしれませんが、僕たちはバイト頑張ってそれを資金に展示してきました。金銭面で夢を諦めないで欲しいです。それだけの発見と価値がありますから。
趣味で写真を撮っているという人でも、気軽に個展をやってみるというのは大事なことかもしれません。やってみたことがきっかけで、写真家を目指すということもあるんじゃないかなと。
それくらい「写真」を展示して見せる、観てもらうということには、“写真のチカラ”を伝えることはもちろん、たくさんの意味があるんじゃないかなと思いますね。
そのためにも、こういうギャラリーをどんどん活用してもらいたいですね。
いま、このインタビューをきっかけに思ったのですが、自分自身が学生の時に、初めてここで写真展をやったということは、もしかしたら、すごく意味があったのかもしれないなと改めて思いました。
そういう初めての経験が、なんだかんだでいまにつながっているんだと思うと、本当に不思議な縁ですね。
★中藤毅彦(なかふじたけひこ)
1970年東京生まれ。 早稲田大学大一文学部中退。東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。 都市のスナップショットを中心に作品を発表し続けている。 国内の他、東欧、ロシア、キューバ、パリ、ニューヨークなど世界各地を取材。 また、裸のラリーズ、ゆらゆら帝国、恒松正敏などのロックミュージシャンのオフィシャルカメラマンを担当するなどアーチストの撮影も行う。
作家活動と共に、東京四谷三丁目にて「ギャラリー・二エプス」を運営、展示の他、ワークショップ等多数開催。
写真集に『Enter the Mirror』、『Winterlicht』、『Night Crawler』、『Sakuan,Matapaan-Hokkaido』、『Paris』、『STREET RAMBLER』などがある。第29回東川賞特別作家賞受賞。第24回林忠彦賞受賞。
インタビュー内で語られていた、中藤さんの写真展 「香港 2019」が禅フォトギャラリーにて11月27日(金)より開催されます。
また、連動企画として、ギャラリー・ニエプスでは、
初沢亜利 写真展 「香港を忘れない」2020年11月21日(土)~29日(日)
キセキミチコ 写真展 「A complicated city」2020年12月5日(土)~20日(日)
が開催されます。
ぜひ、中藤さんの写真展とともに、ギャラリー・ニエプスにも足を運んでみてくださいね。
(まちゅこ。)