Specialコンテンツ第7弾は、ハービー・山口さんの登場です!
先日のオンラインイベント「GR SNAP WEEKEND」でも素敵な作品とともに、ハートフルなお話をしてくださったハービーさん。
昨年撮られた50点を超えるスナップ作品をご紹介します。
どうぞご堪能ください!
「自分にとって良いカメラとは?」
昨年、2020年で私の写真家生活が50年目を迎えた。
50年前、私は20歳の大学生であったがあるテレビ局にアルバイトに毛が生えたような立場でカメラマンとして働いていた。例えばお相撲の場所がある時には、放送局の旗をなびかせた黒い車で、放送界で権威あるスポーツアナウンサーと共に国技館に入り、中入り後の勝敗の決まり手の瞬間を撮影するのだ。それが9時の全国ニュースや夜のスポーツニュースの中で使われていた。
その頃から人を撮る写真家になりたいという夢が私の中で渦巻いていた。それは私が幼少期から患った腰椎カリエスという疾病のため、十数年間にわたり友達と交わることが極端に少なく、断絶や孤立の中で生きていたことから始まった。
孤独と絶望の中でもがいていた私が、一番欲し憧れていたのが、差別や偏見を持つことなく人々と交わることだった。その憧れを自分の写真のテーマに重ねたのが私の写真家としての母体となった。
この50年間、様々なカメラと出会った。フィルムや画像素子の大きさ、写りの味、カメラの大きさや重量などの感触、形、シャッター音、、。様々な特徴がカメラの数だけ存在する。それに加え写真家の数だけ撮影する方法があるのだから、各々の写真家がどこにカメラとの相性を求めるかはその人それぞれだ。
私にとって「良いカメラとは?」。
私の撮影の理想といえば、カメラが常に身体にまとわり付いていて、寝ている時以外は常にシャッターを切れる状態にあることだ。
つい最近、ある編集者に近作をお見せした時「ハービー さんにはいつからいつまでが撮影時間のONとOFFという区切りがないんですね?!」という感想を頂いた。その指摘は的を得ていて、目覚めている時、眼前にある光景に共感を得たら、それは全て撮影の対象物なのだ。常に身にまとっていても邪魔にならず、人を威圧することなく、さらに私に撮る勇気を与えてくれるカメラ。それが私にとっての良いカメラの条件だ。
GRはフィルムの時代からこの小型軽量のスタイルを守り抜いてきた。カメラバッグからカメラを取り出すのではなく、着ている服のポケットから、または手の平からカメラが出てくるのだ。このサイズが故の撮影のさりげなさ、そしてシャープな画像。これだけの要素があれば、私にとって良いカメラの条件はすでに満されていた。
ここにアップした写真は、昨年、ポケットに忍ばせたGRが捉えてくれたものであるが、写真ギャラリーで出会ったカップル、通り過ぎていく人々、乗り合わせたタクシードライバー、新しいビルが作る新しい街のアングル、寂しげな満開の桜、、。こうした2020年の日常を、リアリティーを損なうことなく、時に人々の内面を、そして時に固定された広角の画角が事物や風景を幾何学的に捉えてくれているではないか。
このカメラが多くの写真家の支持を受けているのが理解出来るのである。
ハービー ・山口
1950年 東京都出身
1973年、23歳で渡英し10年を過ごす。その間、劇団の役者を経て写真家になる。折からのパンクロックムーブメントを経験し、ミュージシャンから市井の人々までを撮影したロンドンでの写真が高く評価された。帰国後も福山雅治を初めととするアーティストから広く街の人々にレンズを向け、常に「生きる希望」をテーマとして撮影を続けている。写真の他、エッセイ執筆、ラジオのパーソナリティー、さらにはギタリスト布袋寅泰のアルバムには作詞家として参加もしている。
個展写真集多数。大阪芸術大学および九州産業大学客員教授
2011年度日本写真協会作家賞受賞
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