こんにちは。管理人のまちゅこ。です。
新しく「SENSE」という企画をスタートします!
GRを使ってくださっている写真家さんや作家さんたちに、ご自身にとっての「写真」や「スナップ」の価値、そして向き合い方、また、カメラを通してみる景色とはどういうものなのか、などを、それぞれの視点で語っていただく企画です。更新は不定期です。
どんな方が登場するか、楽しみにしていてくださいね。
第一回目は、Tomas H. Haraさんです!
動画と合わせて、ぜひじっくりご覧ください。
私は日本という国に、東京という街に、
そして渋谷のストリートに恋をしていたのかもしれない。
恋は思いを慕う心境であるように、アルゼンチンの日系家庭で生まれ育った私にとって渋谷は遠い憧れの存在であった。しかし、プラトニックに一方的な理想像を抱いてきた街を初めて自らの足と目で体感した時は、どうも釈然としない気持ちになったのを十年以上経った今でも憶えている。
憧れの街が確かに目の前に現実として広がっているのに、何かが違う。目を背いて現実逃避するか、それとも全てを受け止めて未熟な恋心を愛に変える努力をするか。私は写真を通じて、渋谷をはじめとする東京のありのままの姿と向き合うことにした。
本格的に写真に取り組み始めた当初、進む道を迷うことがあった時のための指針となるようなものを考えたことがある。それは「Photography is about reality, and reality is in the streets(写真はリアルを写すものであり、リアルはストリートにある)」であった。今でもその考えを継続し、ストリートスナップを作家としてのライフワークとしている。
東京のストリートスナップにおいては、過去に想い描いた理想とリアルの比較手段、言わば答え合わせの手法である。また、私は小心者で常にしがみ付く何かがないと不安で前に進めない性格である。今生きるリアルの記録、写真撮影の視点の置き所はきっと将来のまだ見ぬ創作活動の土台となると確信している。
作品をカラーで仕上げるか、それともモノクロにするか、可逆性のある選択肢となっている現代では、モノクロに拘る理由は撮り手の数だけある(またはそれを整理・具体化する途中にある)だろう。私の場合は誰かに語れるほど深い理由はないが、強いて言うならモノクロのsimplicityに魅力を感じている。鉛筆や炭で描いたような白黒の絵は、(色の)情報量が限られた分作品を観る人の想像力に対して問いかけ、刺激する。やはり好奇心に語りかける写真は人の記憶に残る。
「白黒だけの世界でいかに作品を観てくれる人を魅了し、楽しませることができるか」という自問への答え探しもまたチャレンジングで、私がモノクロ写真に夢中になる理由である。解釈の自由度が増す分、作品自体も無数の人生を歩んでいく。
作家にとってはとても幸せなことである。
「集中すると周りが見えなくなる」と人は言うが(実際私もそうである)、その意識が行き渡っていない領域に重要なものが配置されていることは少なくない。28mmレンズで撮るストリートスナップにはそれを感じることが多く、実に面白く今でも新鮮に私を楽しませてくれる。
狙って写真におさめた被写体の周辺には舞台が広がっている。それは街並みであったり、他人の群れであったり様々である。撮影時には気づかなくとも、写真に収まった全てのものが主役を生かす大事な存在である。余談ではあるがポートレート作品を撮る時も28mmで撮ることを好む。主役と舞台を作品の中でどちらも欠けることなく共存させる狙いは同じである。
28mmのスナップは観る側にとっても、撮る側にとってもエンターテイメントである。
Tomas H. Hara(トーマス・ハラ)
1987年生まれ。東京に活動拠点を置くアルゼンチン・ブエノスアイレス出身ストリートフォトグラファー。父からフィルムカメラを譲り受けたことを契機に独学で写真を始め、ブエノスアイレスの大学を卒業後に東京へ移住。以来、渋谷や新宿等の人々を収めたストリートスナップを軸に独自の作品づくりに打ち込む。
www.tomashhara.com