【SENSE】VOL.2 赤城耕一さん

2021.10.14 BLOG

  
父の仕事の関係から、幼少期から引っ越しが多く、東京とその周辺の県のほとんどに住んだ経験がある。そういう意味では特定の故郷がない私だけど、引っ越して最初にやることは家の周囲をただ歩き回ることだった。興味があるのは近隣の施設とか公園ではなくて、街の匂いの違いを確かめること、それは商店街だったり、裏路地だった。また自分の周りにどんな人がいるか住んでいるかを確かめることも重要だった。
 
カメラを手にするようになってから、居住地が落ち着いてからも、日々、家の周囲から街を観察する意識は変わっていない。毎日同じ道を歩いているのに時間や天気、季節によっても違う貌をみせる街の面白さ。自宅周囲をうろつき回るのが基本。これは自分自身の日々の儀式めいたところがある。犬の散歩とか、ネコのパトロールのようなものか。
 
やがて自宅の周囲から輪はどんどん大きくなり、特定の地域へ、そして東京全体へ、日本全体へ、世界へと繋がるわけだが、撮影場所が変わっただけで、撮影のスタンスには変化がなく、好みのモチーフも同じである。下町にゆく頻度は高いけれど、これはかつて居住したのが下町が多かったからかもしれない。

GRはいつの時代の機種でも街にある姿が最も似合うし、28mmは街全体を巨視的に捉えることもマクロ的な視野で見ることもできるフレキシビリティがあり、GR IIIxの40mmはまばたきをするような素直に対象を見つめるような視点、あるいは人物と会話をするような視角や距離感が気に入っている。ズームと異なり融通が利かないように思えるかもしれないけど、視野を固定することで、怠惰になることなく自分のフットワークが保たれるように思える。

GRは携行していることを意識させない稀有なカメラであり、自分が気に入った事象を素早く自分のものにできるという感覚がある。いわば肉眼に最も近いカメラになるわけだ。
 

  
赤城耕一
東京生まれ。エディトリアルではドキュメンタリー、ルポルタージュ。PR誌、コマーシャルでは人物撮影。カメラ・写真雑誌、WEBマガジン、撮影のHOW TOからメカニズムの論評、新製品カメラ、レンズのレビュー。写真集評、写真展評も行う。ワークショップでは撮影指導も行っている。使用カメラは70年前のライカから、最新のデジタルカメラまでと幅広い。「アサヒカメラ」(朝日新聞出版)で「銀塩カメラ放蕩記」を連載。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「銀塩カメラを使いなさい!」(平凡社)「ズームレンズは捨てなさい!」(玄光社)、最新刊は「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)

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