小さなカメラの魅力
1967年に大学に入り、本格的に写真を初めてからもう55年にもなる。最初のカメラは、ペンタックスSPだった。このカメラのサイズが僕にとってベンチマーク(基準)になる。スナップを撮るには小型軽量は必須だった。
カメラは小学校の時から触っていた。プラスチックのスタートカメラに始まり、フジペット、OLYMPUS PEN-Sで終わった。職業カメラマンになることはまったく考えてなかった。
大学を決めるとき、初めて写真で生きてゆこうと思った。父親が新聞記者だったこともあるだろう。知っている写真家は、土門拳とロバート・キャパだけだった。
大学に入り、多くの写真家を知った。報道写真ではない写真の魅力に引き寄せられた。
著名な写真家のアシスタントを経て、1975年、フリーランスの写真家としてデビューした。
あれから何台のカメラを所有したろう。すべて仕事のためだ。インスタントカメラ、コンパクトカメラから、大型ビューカメラの8x10まで。さまざまなフォーマットのカメラを駆使した。なぜならフォーマットのサイズによって写り方が劇的に変わるからだ。
正直、僕は割とクールに写真を撮っている。僕の目に見えていることと、カメラが記録するカメラの目とは、いつも何かが違うと思っている。想像したように写ることはあっても、見た通りに写ったことは一度もない。その違和感こそが、僕にとっては魅力なのかもしれない。
2005年、初めての本格的コンパクトデジタルカメラ、GRデジタルが発売された。でも、すぐに飛びついたわけじゃなかった。それまで使っていたGR1sは、コンパクトなボディに、一眼レフカメラと同じ、35㎜フィルムが詰め込まれていた。しかし目の前のGRデジタルは、すでに出回っていたコンパクトデジタルと同じような、小さなセンサーのカメラだった。躊躇した。
その頃僕は、18歳から26歳の間、写真を本格的に始めてからプロの写真家になるまでのスナップを、写真集「あの日の彼 あの日の彼女1967-1975」を纏めている時だった。そこにはISO400のトライXを多用した、どれもパンフォーカスの写真が並んでいた。そう思った瞬間から、GRデジタルに飛びついた。
2013年、待望のAPS-Cセンサーを搭載したGRが発売された。ようやく銀塩時代と同じ基準のコンパクトカメラが誕生した。2019年、GR Ⅲは、よりコンパクトになった。
今回、GR Ⅲxという、かつて GRデジタルのアクセサリーとしてあったテレコン40mm相当と同じ画角、ワイドでなく正真正銘の標準レンズが搭載された。
この新しいカメラはいったどんなふうに世界を記録するのだろうか。
*model:画家 高久 梓/Azusa Takaku
横木安良夫
1949年千葉生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。1975年、アシスタントを経て独立。広告、ファッション、ヌード、ドキュメンタリーとさまざまな分野で仕事。1985年、新宿ニコンサロンにて初個展『Day by Day』以後個展多数。1998年より文筆も始める。写真展、写真集多数。著書に、写真と文『サイゴンの昼下がり』新潮社。小説『熱を食む、裸の果実』講談社、ノンフィクション『ロバート・キャパ最期の日』東京書籍などがある。
https://alao.co.jp/