二十代の終わりに体力の衰えを痛感して、何かスポーツを始めたかったけれど、仲間が見つけられなかったから、スポーツジムに通って筋トレすることにした。マーヴェルのキャラクターみたいな逆三角形のインストラクターが、「長く楽しく続けるために大切なことが三つあります」と言った。

フォームを正して刺激を与えるためにインストラクターは必要です。故障も避けられ、マンネリに陥ることもなくなります。次に大切なのが栄養。筋肉の材料はタンパク質を中心とした栄養であって、トレーニングは設計図でしかありません。
「あとは仲間がいるといいですよ」とインストラクターが目を合わせた。「体つきが変わったんじゃないの、と言ってもらえるだけで励みになります。気持ちだけじゃなく、効果が違うんです」
一人でやれるのが魅力で始めた筋トレなのに、インストラクターや仲間が必要なのが意外だった。

写真も似ていると思う。
今はいろんなメソッドがあり、上手に撮るコツが溢れているけれど、師匠と呼べる人がいるといい。栄養は人それぞれで、インスタの”いいね”でもいいと思う。仲間は今だったらネットで簡単に増やせるかもしれない。昭和に育った僕としては、栄養と仲間に関して言えば、ときどきでいいからリアルなものも忘れないで欲しい。質と効果がケタ違いだ。

高知に向かうとき、今の高校生はどうなのかな、と思った。
YouTubeがある時代に生まれても写真を撮っていて、iPhoneがあるのにカメラを手にしている。SNSで世界と繋がっていれば、高知に住んでいても東京を遠く感じていないだろうか。

GRらしいイベントで、GR tripとGR meetがある。旅と出会い。写真における大切な栄養と刺激だろう。GRはこの二つを最大限に楽しむために作られたカメラと言ってもいい。

GR tripは仲間同士で立ち上がってGRチームを呼ぶもので、GR meetはGRチームが用意した場所が先にあって参加者が集まるもの。それぞれに良さがある。なんとなくだけれど、tripは28mmに似ていて、meetは40mmに近い気もする。人との距離と関わりの深さの点でそう思う。

土地柄が出やすいのはtripのほうかもしれない。会場や撮影地を参加者先導で決めるから。だから高知にtripで呼んでもらえたのは嬉しかった。ずっと訪れたいと願っていた土地だったから。

前園真聖さんが自転車で四国をめぐるテレビ番組があり、地元の人たちと触れ合いながら四国の魅力を感じていく。景色も素晴らしいが、何より惹かれるのは人柄だ。お節介はしないけれど困ったことがあったらいつでも頼りなさい、という優しさと距離感が最高。とくに高知は素晴らしかった。自転車が理想だけれど、そうでなくても近いうちに訪れてみたいと周囲の人たちに話していた。強く願えば叶うものだ。

高知での滞在について断片でしか覚えていない。灼熱の日差しと止まらない汗、笑い、カツオ、緑と青のコントラスト、さっぱりして優しい人たち、緩やかに流れる時間、美しい川・・・これこそ旅と出会いだ。同じカメラを使っているだけで、すぐに会話が成立する。すべての瞬間にGRがいた。

写真は一人でやってきた、という自負があった。けれどもいつも仲間がいて、だからこそ続けてこれたのだと思った。ずっと憧れて、もらうばかりだったけれど、少しでも自分が与える役割を果たせていればと願った。GRを手に一緒に汗を流して撮り歩いた思い出とともに。

仲間のいない小さな島で写真を撮り続けていて、一度は挫折し、でもこうして写真家として大人になった僕から、高校生たちに伝えておきたいことがあったから、最後にきちんと言葉にした。

「今回のイベントは、みんなが願ったから叶ったことを忘れないでね。願えば叶うなんて甘いことは言わないけれど、ただ思っているだけじゃなくて、行動を起こすことの大切さと、それで世界が変わった喜びは大切に」

内田ユキオ（Yukio Uchida）
1966年 新潟県両津市（現在の佐渡市）生まれ。公務員を経てフリー写真家に。
ライカによるモノクロのスナップから始まり、音楽や文学、映画などからの影響を強く受け、人と街の写真を撮り続けている。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞などにも寄稿。著書「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。
現在は写真教室の講師、カメラメーカーのセミナーなどでも活動中。
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