定期的にコロッケ蕎麦が食べたくなるのは何故だろうか。ゆでおきのやわらかい蕎麦に濃いめのつゆ、中央に鎮座する冷たいコロッケ。
そもそも私は食感の異なるものを組み合わせた料理があまり得意ではない。豆ご飯に栗ご飯、蕎麦のネギなども限りなく薄くほんのりと水分をまとったものではないと口の中がまとまらないように感じてしまう。
「舌障り」とはよくいったものであるなあと思いつつ、先日も朝からざる蕎麦をすすりながら厚めに刻まれたネギをそば猪口から退けた。
元を辿ればフレンチであるとか、家庭で作るお夕飯のコロッケなどはここでは置いておくとして、コロッケとはスナックではあるまいか。蕎麦もそもそもファストフード。それらをどっこいしょ、と一緒くたにした少し乱暴に感じながらも贖い難いだしとしょうゆの香りに郷愁誘うコロッケのフォルム。しかも腹持ちが良い。それらがコロッケ蕎麦の魅力である。
コロッケ蕎麦をはじめて食べたのはいつ頃だったろうか。煙とおっさん(失礼)の立ち込める飲み屋や牛丼屋などに入れるようになったのもここ10年のことだし、駅のホームの立ち食い蕎麦などもってのほかであった。たしか都内に住んでいた頃、鎌倉へ撮影に向かう途中であまりにお腹が空いたため、やや渋りながらも夫に連れられ大船駅のホームで啜ったのが私にとってのコロッケ蕎麦初体験であったように思う。
神奈川県から多摩川を越えて山手線内に入ると、電車のドアが開くたびに蕎麦のつゆの香りがする。特別うまいものでもないのに、以来ついフラフラと引き込まれてしまうのはあの香りに拠るところが大きいのだろう。食券を渡して呼ばれるまでものの1分も掛からない。蕎麦を受け取って七味をふりかけ、GRを取り出して撮る。こちらは電源を入れて0.8秒。GRの圧勝である。よくわからないことをつい書いてしまうのはきっと腹が空いているからであろう。
コロッケ蕎麦を食べるついでに駅でスナップをする。腹が満たされてから撮るのが良いか、空腹時に撮る方が良い写真が撮れるかは人にもよるのだろうが、私は圧倒的に前者である。腹が減ったらすぐに食べられるコロッケ蕎麦と撮りたいと思ったら即座に撮れるGRはきっと相性が良い。
【プロフィール】
大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。リコーRING CUBEの公募展をきっかけに写真家となる。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・
WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「本日の箱庭 」・「浜」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。
www.minadaimon.com