昨年末の話。
人生で初めて四国へ行った。大学時代からの友人が香川県高松で古民家を改装して高級宿をつくっているので、それを広く世界中の人々に見せるための写真を撮影するというのが目的だった。
建築そのものは主に別なカメラで撮りながら、高松の街の魅力を伝えるためのスナップを主にGR IIIxで撮った。
GR IIIが登場してから数年間、どこへ行くときもGRを持っている。GR IIIxが登場してからは、そちらを使うことが多い。
思えば、本当にいろいろな場面、コンディションでGR IIIxを使ってきた。旅、ストリート、ポートレート、カフェ、料理。明るい場所、暗い場所、自然光、LED、広い土地、狭い部屋。
だから、どういう条件下でどうGR IIIxを使ったら満足のいく写真が撮れるか、経験値としてよく知っている。友人に連れていってもらったうどん店でも、反射的にスナップが撮れた。
世界的なパンデミックの時期もGRたちが常に傍らにあった。だから、規制が緩んだときのよろこびも、彼らで多く写した。
そのハイライトの一つが、以前このコラムでも書いた、昨年8月に息子と行ったタイへの旅だ。修学旅行などが軒並みキャンセルになった学年に属する彼に、異文化での体験、ちがう価値観と言語を有する人々と接する経験をさせたかった。ようやく実現したよろこびはひとしおだった。
これらの写真には当然、視覚情報以外の情報は入っていない。
だが、GR IIIxの40ミリ相当の画角で象徴的に切り取られている静止画だからこそ、見返すたびに、2人で体験した視覚情報以外のことがリアルに思い出される。
異国の空気、熱、匂い。異文化での興奮、緊張、疲れ。彼の大好きなタイ料理の本場の味、想定外だった新鮮なドリアンの美味しさ、ずっと乗りたいと言っていた象の背中で体感した揺れ。すべてがありありと思い出される。
これらの写真に、アートとしての価値がどれほどあるかわからない。他人にはどう見えるかもわからない。だが、当事者にとってはこの上なく価値があり、かけがえのないものだ。家族写真とは、そしてプライベートのスナップ写真とはそういうものだと思う。
二度と繰り返すことのない過ぎ行く時。誕生し、成長し、老いていく姿。それらを可能な限りリアルかつ美しく残す。それが究極のスナップシューターGRで撮れるものの真髄だと思う。
All photos taken with GR IIIx
安達ロベルト(Robert Adachi)
人がどのようにつながり、創造するかに常に関心を持ち、十代で外国語、プログラム言語、絵画を学び、大学で国際法と国際問題を学び、22歳で作曲を始め、32歳のとき独学で写真を始める。GR DIGITAL III、GXR、GRのカタログ写真・公式サンプル写真を担当。「GRコンセプトムービー」の背景に流れるオリジナル音楽を作曲。ファインアートの分野で国内外で受賞多数。主な出版に写真集「Clarity and Precipitation」(arD)がある。
www.robertadachi.com