【コラム】はじまりはリングキューブから/大門美奈

2023.06.23 BLOG

以前のコラムでも触れたが、2011年1月に初めての写真展を開催した。タイトルは「Portugal」。その前の年、夫と旅したポルトガルの写真展だ。
リコーフォトギャラリーRING CUBE ではたびたびワークショップが開催されていて、当時八丁堀に住んでいた我々は時間さえあれば RING CUBE に足繁く通っていた。仕事帰りの待ち合わせに、休日の散歩の途中にと、銀座の真ん中にあるドーナッツ状の空間に吸い込まれるように入り浸っていた。

そのときも某カメラ雑誌のアロハな編集長と、このコラムでもご一緒している内田ユキオさんのレビューがあるということでポートフォリオをどっさり抱えて銀座四丁目に向かったのだった。そこで「公募展に応募してみたら?」というアドバイスを受け、展示に至ったことで今の私があるのだといえる。今こうしてコラムを書いているのも、つくづく縁があったとしか言いようがない。

今年の3月、ついに RING CUBE のあった三愛ドリームセンターが解体されることになった。私だけでなくこのギャラリーに関わったあらゆる人たちが心に思うことがあるだろう。銀座に点在する中古カメラ店をいくつか巡回したあと、三愛ビルの最上階の9階までエレベーターで昇り、8階のギャラリーをぐるりと巡って銀座の街に再び降りてゆく。このルーティンが、私の銀座での行動パターンであった。

あれから RING CUBE という名も変更され、遠方へ越したこともあって足も遠のいてしまっていたが、銀座四丁目の交差点に建つビルを見上げるたび、写真家として一歩踏み出したときの気持ちをじんわりと思い出していたものである。

ここは、私のはじまりの場所。形あるものはいつか必ず無くなるけれど、はじめて沢山の人々に写真を観てもらうという緊張感と大きな喜びは、これからも写真家という職業なり人生を続けていくからには、ずっと心にとどめておきたい「核」のようなものである。これからはGRを手にするたびにあのときの気持ちを思い出すことになるのだろう。

GRという存在はカメラだけにとどまらない、私にとって羅針盤のようなものなのかもしれない。
たくさんの「ありがとう」を込めて。

 
【プロフィール】
大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。リコーRING CUBEの公募展をきっかけに写真家となる。作家活動のほかアパレル
ブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・
WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「本日の箱庭 」・「浜」、
同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。
www.minadaimon.com



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