2024年2月の「GR LIVE」イベントに登壇した時に話したテーマが「GRは人生のサブカメラ」。映画プロデューサーの石井朋彦さんと、商品撮影のプロの木村徹志さんがお相手だった。石井さんのメインカメラはライカ、木村さんはソニー、僕はハッセルとそれぞれ違うが、GRだけは常に持ち歩いている。これは、他のユーザーもそうで、GRというカメラはメインではなく、常にサブ的な存在。面白いのは、メインカメラが変わってもサブカメラであるGRの位置付けは変わることがないということ。そんなカメラは他にはないだろう。つまりそれは、GRは良くも悪くも劇的な仕様の変更がないからだと思う。フィルム時代からずっとあの形、単焦点28ミリ相当、ポケットに入るハイクオリティカメラという立ち位置だ。
もしかしたら、僕はそんなに熱心なGRユーザーではないかもしれない。気合を入れて作品撮りなんてしたことがない。でも、出かける時に財布と携帯とGRを一緒に鞄に入れている。久しぶりに会った友人を撮ったり、美術展の会場で使ったり、まさしく普段使い。それ以上でもそれ以下でもないというか、どんなに携帯のカメラ性能が進化しても、僕にとってのGRの立ち位置は変わらない。
先述したイベントトークの中で、石井さんが面白いことを言っていた。「GRはどんな場所でも、たとえばお葬式でも取り出して撮影ができる」と。携帯や、ましてや一眼ミラーレスで撮ることが憚られる場所でも、GRならすっと取り出してシャッターが切れるというのだ。それには頷くしかなかった。確かにGRは場所を選ばない。最近は招待された結婚式でも、高級ミラーレスカメラは持ち込めないそうだし、かといって携帯で撮るのは何か違うし、という場面は多くある。だから、「サブ」っていう立ち位置はいいよなあ。信頼は厚いけど、大きな責任を背負うこともなく、自由に振る舞うことができて愛される。そう思うと、「GR的な生き方」っていいかもしれない。声高に自己主張をするわけでもないのに、飽きられることなく愛され続ける。こういう人に僕はなりたいとつくづく思う。
渡部さとる
1961年山形県米沢市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ、報道写真を経験。同社退職後、スタジオモノクロームを設立。フリーランスとして、ポートレートを中心に活動。2003年よりワークショップを開催。
最近ではすっかりYoutube「2B Channel」の人として認識されている。おかげさまでその功績が認められて第33回「写真の会賞」特別賞を受賞しました。現在慶應義塾大学大学院非常勤講師でもあり、近著には『撮る力見る力』(ホビージャパン)がある。
Satoru Watanabe@watanabesatoru2b