【コラム】難しい五叉路/木村和平

2024.08.23 BLOG

車の免許を取ってもう少しで2年になる。運転は毎日のようにしていて、自分の部屋がそのまま動いているような快適さに、感動が続いている。最近は運転中に聞いている音楽と、前を走る車のウインカーの点滅のリズムが合うとうれしい。

 
そんな中、先日初めての違反を経験した。パートナーを助手席に乗せて、彼女の実家へ向かっている道中のことだった。工事渋滞があったせいか、Googleマップの案内に従い、いつもとは違う道を進んだ。はじめて通る複雑な五叉路の交差点に、信号のない脇道からしっかりと一時停止をして大通りに入り、矢印信号を通過すると、少ししてパトカーに止められた。近くのスーパーの駐車場に入るよう促され、程なくして警官が私の元へ近づいてくる。私は違反をした認識が全くなく、はてなの顔で話を聞くと、どうやら信号のない脇道と大通りの矢印信号の間にもう一つ信号があり、その赤信号を無視してしまったらしい。全く気が付かなかった。地図でその交差点を確認すると、確かに、見逃したらしいもう一つの信号があった。「めちゃくちゃ難しいっすね」と思わず言ってしまった。おそらく近隣のひとたちにとっては有名な交差点で、警察にとってもお手軽取締りポイントなのだろう。

 
違反は違反であるし、運転に慣れてきて注意散漫になっているのも確か。私は反省し、これから気をつけようと思った。けれどその警官の高圧的で早口で誇らしげな態度に、多少のもやもやが残った。はじめてあの交差点を通る車の、いったい何割が正しく通過できるのだろう。確実に釣れるポイントでマグロを釣ってうれしいだろうか、ロマンはどこにあるのだろうか、と下手な例えを脳内で浮かべてみたけれど、まぁマグロならうれしいか、と思った。

 
警官と別れたそのあしで、コンビニで1万円を下ろし、郵便局へ違反金を支払いに行った。9000円。そのお釣りで、新札とはじめて出会った。北里柴三郎が真顔で踊っている。なんなんだこの気持ちは。知らない感情に、私は笑うしかなかった。

 
後日、供養と自戒を込めて、思い出の交差点を訪れた。近くの駐車場に車を停め、交差点を眺めながらGRでいくつかの写真を撮る。車外から改めて見ると、当時より車通りの多い時間だからか、そこまで難しくは感じなかった。とはいうものの、その短時間のあいだに数台の車が信号に気づかず通過していた。当時はほかに車も人もおらず、ちょうど信号の切り替わりの一番難しいタイミングで通りに入ってしまったことがわかった。なんだか現場検証のような写真になってしまったが、本来GRはこういう写真が向いているのかもしれない。私は車に乗って、一時停止をして大通りに入り、赤信号で止まって、帰路についた。

 
 
 
木村和平
1993年、福島県いわき市生まれ。東京在住。
ファッションや映画、広告の分野で活動しながら、幼少期の体験と現在の生活を行き来するように制作を続けている。
第19回写真1_WALLで審査員奨励賞(姫野希美選)、IMA next #6「Black&White」でグランプリを受賞。主な個展に、2023年「石と桃」(Roll)、2020年「あたらしい窓」(BOOK AND SONS)、主な写真集に、『袖幕』『灯台』(共にaptp)、『あたらしい窓』(赤々舎)など。
Kazuhei Kimura (@kazuheikimura)




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