【コラム】家の記録/木村和平

2024.11.22 BLOG

東京のはずれに引っ越しをして2年が経ち、先日契約を更新した。これまでに賃貸の契約を更新したのは、上京してはじめて住んだ杉並のワンルームだけだったので、それぶりの更新となる。いまの家に至るまで、私はいくつもの賃貸を転々とし、2年以上住み続けることはなかった。理由はさまざまあれど、結局のところは単純にその家が好きでなくなったからか、その家の中で撮れる写真を撮り切ってしまったと感じたから、の二択であろう。

正直なところ、いまの家も更新せずに出ることも選択肢にはあったけれど、さまざまな状況を考慮した上で、住み続けることを選んだ。私はこの家をとても気に入っている。大家さんが古家を7割ほど直した状態で私たちが借り、住みながら、より住みやすいように改装をしてきた。人間も猫ももうすっかりこの家に慣れて、私は目を瞑っても移動できるくらいにはなり、猫たちは日々新しい場所で一反木綿のように転がっている。古い家なだけに問題も多い。けれど工夫を凝らせば気にならない。強いていうならば庭の管理だけが地獄で、もしいつか家を持つならば、建物以外の敷地はコンクリで埋め尽くしたいと思うほどに、私には庭は向いていないと思った。

家の裏が畑で抜けているおかげで綺麗な西日が入る、というのがこの家に住むことにした決め手のひとつだったけれど、最近その畑が売れて家が建ったり、隣の穏やかで大好きなおばあちゃんが介護施設に入って空き家になったり、もう一方の隣のいつも野菜を(半ば強引に)くれる少々おせっかいなおばあちゃんが勝手に柵を乗り越え我が家の庭に勝手に紫蘇の苗を植えたことで関わる気力を失ってしまったり、この2年でいろいろなことがあった。

2年も住めば、その家に入る光も知り尽くした気になるけれど、いまだに知らない光と遭遇することには驚く。予定がなく家でぼーっとする時間があればあるほど、それらと出会う確率は上がるのだ。仕事がない日が続いて不安になっても、この光景をみれたなら少しばかり安心する。

家の記録写真の多くは、GRで撮影している。このカメラの瞬発力と質のバランスにはいつも驚かされる。GRを手にしてから、いっときより本当に写真を撮るようになった。そのことに、私はとても感謝している。いつかこの家を離れるときまで、ものと光の移り変わりを、なるべく写真に収めたいと思う。




木村和平
1993年、福島県いわき市生まれ。東京在住。
ファッションや映画、広告の分野で活動しながら、幼少期の体験と現在の生活を行き来するように制作を続けている。
第19回写真1_WALLで審査員奨励賞(姫野希美選)、IMA next #6「Black&White」でグランプリを受賞。主な個展に、2023年「石と桃」(Roll)、2020年「あたらしい窓」(BOOK AND SONS)、主な写真集に、『袖幕』『灯台』(共にaptp)、『あたらしい窓』(赤々舎)など。
Kazuhei Kimura (@kazuheikimura)




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