【パリ・フォト2024 レポート】ギャラリー・セクター編(前編)/石井朋彦

2024.12.18 BLOG

こんにちは!管理人のまちゅこ。です。
先日、「GR TV」でSPECIAL企画としてパリフォトのレポートをしてくださった石井朋彦さんが、GR officialでのレポート記事も書いてくださいました。

前編、後編の二本立てです(後編は明日公開予定)。ぜひ、GR TVと合わせて、ご覧いただけたらと思います!

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 2024年11月7日(木)〜10日(日)、フランスのパリで開催された世界最大の写真フェア「パリ・フォト」に参加してきました。

 1905年のパリ万博時に建設された「グラン・パレ」の会場に、全世界から写真専門のギャラリーとブックセラーが集うパリフォトは、写真を愛する者であれば、一生に一度は訪れるべき場所です。僕は三年前、はじめてパリフォトの会場に足を踏み入れました。あの日の衝撃は、今も忘れることができません。リチャード・アベドン、アーヴィング・ペン、アンリ・カルティエ=ブレッソンやアレック・ソス、森山大道や荒木経惟に杉本博司……。写真の生まれた国・フランスのパリで世界最高峰の写真に触れるという貴重な機会に恵まれてからというもの、パリ・フォトの虜になったのです。

 セーヌ川沿いの北、アンヴァリッド橋とアレクサンドル三世橋の間に建つ、ネオクラシシズムとアール・ヌーヴォー様式のグラン・パレは、南北に広がる縦長の空間と、西側に広がるホール区画によって、凸型の構造になっています。

 会場は、大きく四つのセクターに分けられます。世界中のギャラリーがオリジナルプリントを展示し、その場で売買が行われるギャラリー・セクター(PRINCIPAL/MAIN)、昨年より新設され、今年は西側ホールをほぼ占有する形で拡張した、デジタル・セクター(DIGITAL)、グラン・パレを取り囲む渡り廊下状の二階フロアには、新進気鋭のギャラリー(Emargence)と、出版社や書店が軒を連ねるブック・セクター(EDITION)が並び、写真集を手に取って購入することができます。

 パリ・フォトは、賞を競う映画祭や、写真を鑑賞する写真祭ではありません。厳しい審査に通ったギャラリーが、一点数十万円から数千万円もの価格がつけられた写真を展示し、販売する場であり、古書や新刊の写真集を購入することができる、巨大なマーケットなのです。
 
 会場に入ると、今年は600点以上のポートレート写真の「壁」が来場客を出迎えてくれました。

 20世紀前半、当時の人々を7つのカテゴリーと45のポートフォリオに分類し、6万枚にわたる膨大なポートレートを取り続けた写真家・アウグスト・ザンダーの作品。彼が残したガラス乾板プリントは、ナチス政権下も地中に隠されていたことで生き延び、息子によって再びプリントされ、現在はひ孫が経営するギャラリーによって今日に受け継がれています。100年以上前の人々との肖像を、2024年の人々が見つめる様を目の当たりにし、写真の記録性について考えさせられました。

 広大なギャラリーセクターは、四日間すべてを費やしても、その全貌を把握することは難しいのではないでしょうか。世界最年少でVOGUEの表紙を任された黒人写真家、タイラー・ミッチェルが、ファッション界の巨匠、リチャード・アヴェドンの写真と対話する形で作品を発表した「AVEDON AND ME」という名門・GAGOSIAN GALLERYの展示。写真家集団・MAGNUMのギャラリーでは、昨年この世を去ったエリオット・アーウィットの写真を中心に、MAGNUMを代表する写真家の普段見ることの少ない作品が展示されていました。

 イギリスの写真家、マーティン・パーの作品を展示するギャラリーです。今年は「NO SMOKING」という新作写真集を発表したパーの、ユーモア溢れる作品を前に、来場客の頬が緩みます。

 本年は、例年と比較して、日本のギャラリーが多数参加するパリ・フォトでもありました。

 日本を代表するギャラリー「TAKA ISHII GALLERY」や「AKIO NAGASAWA」、「PGI GALLERY」と「3rd Gallery AYA」の共同ブースや、戦前の名古屋の前衛写真家を特集した「MEM」、東京・目黒で主に若い世代の写真を扱う「POETIC SCAPE」等が選出され、日本の写真が高く評価され、注目されているかを実感します。

 写真は「PGI GALLERY / 3rd Gallery AYA」での商談の様子。日本のモノクロ写真を収集しているコレクターが、購入を検討しているプリントの状態を一枚一枚、確かめています。

 彼の所有するコレクションはいずれ、美術館に収蔵される価値のあるものばかりだとか。作品がコレクターによって購入され、最終的には美術館にアーカイブされる。売り手も買い手もまた、「残す」という事に強い信念を持っています。消費文化に毒されてしまった私たちは「買う」=「消費する」と捉えがちですが、コレクターの使命は「買う」=「残す」ということのようです。

 本年は、昨年から新設され、一気に拡張した、生成AIによって生成されたプロンプトグラフをはじめとした「デジタル・セクター(DIGITAL)」の存在感が際立っていました。これは、Shutterstockというストックフォトの肖像写真を重ね合わせると、実に平均的な肖像になってしまうということを表現した作品です。

 平等や多様性が叫ばれる昨今、実はその背後に、世界がTYPICAL=典型的なものばかりで埋め尽くされているのでは? というメッセージ。生成AIによって、写真やカメラの存在が危ぶまれるのでは……といった声が聞かれますが、パリ・フォトの会場では、そんな危機感は感じません。世界中の人々が、カメラとレンズを通して描き出した世界の豊穣さとエネルギーが、AIやデジタル技術によって置き換わることはないのだということを、パリ・フォトは教えてくれたような気がします。

 今回のパリ・フォトへは、発売直後に購入した「GR III HDF」をポケットに忍ばせていました。「GR III」と「GR IIIx」も所有していますが、はじめて「GR III HDF」を購入し撮影した直後「GR III」と変わらず、シャープでクリアな写真が映し出されるので、何度か「HDFモードになっているのかな?」と、確認したことを覚えています。遅ればせながら、今回のパリ・フォトでその真価を理解することとなりました。ヨーロッパの光を「GR III HDF」は、ため息がもれるような描写に変えてくれるのです。

 何気ない朝の風景も、HDFモードで撮影すると、朝日を浴びながらクロワッサンとコーヒーを口に運ぶ人々の会話が聞こえてくるような空気感を残すことができます。逆光もハイライトの飛びも恐れずに、ただシャッターを押すだけ。逆光だけではありません。入射光に対しても、ある程度反射光がないと効果を得られにくいのですが、HDFモードは思わぬ撮影結果をもたらしてくれました。

 GR III HDFを手に入射光や木漏れ日を探すうちに、気づいたら路地裏に迷い込んでいることが何度もありました。海外でも「GR III HDF」は人気と聞きますが、繊細かつ光の変化の大きいヨーロッパの街でこそ、その真価が発揮されるように感じます。

 後編は、パリ・フォトのもうひとつの顔である「ブック・セクター」と、写真を印刷することの意味について、考えてゆきたいと思います。


★GR TV SPECIAL/by Tomohiko Ishii
Paris Photo 2024 Report Vol.1
Paris Photo 2024 Report Vol.2



 
石井朋彦 / Tomohiko Ishii 
写真家・映画プロデューサー。
「千と千尋の神隠し」「君たちはどう生きるか」「スカイ・クロラ The Sky Crawalers」等、多数の映画・アニメーション作品に関わる。
雑誌「SWITCH」「Camaraholics」等に写真やルポルタージュを寄稿し、YouTube「2B Channel」や「GR TV」、イベント等で、カメラや写真の魅力を発信し続けている。
2023年、ライカ GINZA SIX、ライカそごう横浜店で写真展「石を積む」、2024年、ライカ松坂屋名古屋展にて「ミッドナイト・イン・パリ」を開催。高輪ゲートウェイで高さ3m、全長140mの仮囲い写真プロジェクト「CONSTRUCTION STORY」を開催した。





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