【コラム】旅するためのカメラ/渡部さとる

2024.12.26 BLOG

今年の秋は美術館を巡る旅に出ることにした。金沢21世紀美術館、大阪中之島美術館、徳島大塚国際美術館、兵庫県立美術館、そして福井では永平寺と恐竜博物館にも足を伸ばした。

問題は何のカメラを持っていくかだ。毎回出発直前まで悩む。夜にパッキングしていた荷物を早朝に入れ替えるなんてよくあることだ。デジタルのハッセルブラッドやライカという王道もあれば、ローライフレックスでフィルムという選択肢もある。最近一番使っているのはペンタックス17だが、それは妻が使うと言う。購入したばかりのライカのレンズを使いたい、ハッセルには絶対の信頼を置いている。

あれこれ考えていると、見かねた妻が「今回は何しに行くの?」と聞いてきた。そうだ美術館を巡るのだ。撮影メインではない、毎日歩き回るだろう、となると荷物は最小にすべきだ。結局GR IIIxだけを持っていくことにした。この選択は大正解だった。資料的なものは iPhone、気になった場所はGR IIIxと使い分けることで6日間の旅は充実したものになった。

今回の旅で最も印象的だったのは、大塚国際美術館だ。この美術館は、他にはない独自の特徴を持っている。それは、展示されている絵画がすべて陶板に焼き付けられた複製であることだ。複製と聞くと、一見オリジナル作品に劣るのではと思うかもしれない。しかし、この美術館が提供する体験は、そうした先入観を軽々と覆してしまう。

まず、驚かされたのは、その複製の精巧さだ。陶板という素材の性質上、色合いや質感が非常に忠実に再現されている。さらに、オリジナルの絵画と同じサイズで作られているため、名画のスケール感を存分に味わうことができる。まるで自分が実際にその時代や場所に立ち会っているかのような感覚を味わえる。

この美術館のもう一つの魅力は、世界中の名画が一堂に会していることだ。通常、これらの作品を見るためには、ヨーロッパやアメリカの美術館を巡らなければならない。しかし、ここではその旅を一日で体験できる。例えば、システィーナ礼拝堂の天井画を見上げる体験や、「最後の晩餐」の全体像を間近で見る機会は、訪れる人に感動を与える。間違いなくお勧めできる美術館だ。

ところでお気づきだろうか、今回掲載している写真は拡大するとザラついている。どうやら感度を間違えて8000にしてしまっていた。てっきりISO800にセットしたつもりでいたのに、0がひとつ多かった。途中で気がついたのだが、ザラザラした感じが面白くて、今回はその設定のまま撮り続けた。ハーフサイズのペンタックス17を使っていたので、粒子が荒れる感じが普通に感じるようになっていた。

掲載写真はノイズリダクションはかけていない。外部ソフトを使えば、ざらつきは何事もなかったように消すことができる。でもなんだか、そのアレた感じが旅っぽく感じる。彩度がおちついていて、コントラストも柔らかく、感度8000は冬の旅にはちょうどよかった。


 
 

渡部さとる
1961年山形県米沢市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ、報道写真を経験。同社退職後、スタジオモノクロームを設立。フリーランスとして、ポートレートを中心に活動。2003年よりワークショップを開催。
最近ではすっかりYoutube「2B Channel」の人として認識されている。おかげさまでその功績が認められて第33回「写真の会賞」特別賞を受賞しました。現在慶應義塾大学大学院非常勤講師でもあり、近著には『撮る力見る力』(ホビージャパン)がある。
Satoru Watanabe@watanabesatoru2b




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