妻と旅行に行くときに リコー GR IIIx を持っていくことがほとんどだ。その理由を「軽いから」だと思っていたのだが、それだけではないということに気がついた。
ハッセルブラッドであってもライカであっても、ボディにレンズ1本なら、旅先に持っていくのにそこまで支障がない。


今回、妻の誕生日ということで熱海に一泊してきた。梅や熱海桜が満開で、散策を楽しみながらふたりで歩いた。そのときに気がついた。
「GRだと妻のリズムと合う」
彼女も写真が好きで、撮影しながら歩いている。使っているのはカメラではなく iPhone SE。手を伸ばし、画面をタップして写真を撮っている。いくらカメラを勧めても、「これがいい」と古い iPhone を使い続けている。僕はその横で GR IIIx で写真を撮っている。




GRには 液晶ビューファインダー がないから、僕も手を伸ばして背面液晶を見ながら撮影している。すると周囲の状況がわかり、妻と話しながらの撮影を続けていける。妻が今何に興味を持ち、何を見ているかがわかるから、歩く速度や立ち止まる「リズム」を合わせることができる。
もしこれがファインダーの付いているライカだったらどうなるか。僕はその中に集中し、自分勝手に動き、立ち止まり、結果として妻を怒らせることになる。これは経験している人も多いはず。
僕は旅先で iPhone を使って撮ることはほとんどない。なぜなら、僕と iPhone のリズムが合わないから。シャッターボタンを押すという行為が、僕のリズムの中に必要だ。

僕はスペックでカメラを選んでいない、リズムで決めている。
今この場所で、心地よいリズムを作ってくれるカメラは何か?だから、妻が横にいるときは GR 一択 になるのだ。
渡部さとる
1961年山形県米沢市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ、報道写真を経験。同社退職後、スタジオモノクロームを設立。フリーランスとして、ポートレートを中心に活動。2003年よりワークショップを開催。
最近ではすっかりYoutube「2B Channel」の人として認識されている。おかげさまでその功績が認められて第33回「写真の会賞」特別賞を受賞しました。現在慶應義塾大学大学院非常勤講師でもあり、近著には『撮る力見る力』(ホビージャパン)がある。
Satoru Watanabe@watanabesatoru2b