Specialコンテンツ第5弾は、写真家の津田直さんの登場です。
GRを持って歩いたフィンランド、ラトビア、エストニア。たっぷりご堪能ください。
夏至の光
美大で写真を専攻し、様々なカメラを手に取り、フィルムを通して世界を映し出すことに惹かれて、気が付いたら写真家になっていた。そのなかでも一際、身体は小さいけれど、存在感を発していたのはGRだった。当時はまだフィルムカメラだったけれど、写真を志す仲間同士では「コンパクトだけど、全紙まで引き伸ばせるカメラ」という定評があった。また、その目=レンズは、単焦点であるがゆえに、被写体と向き合う時の基本として、身体で距離を捉えることを僕に教えてくれた、と言っても過言ではない。
そして2019年夏、僕は新型のGR IIIを手に、新たな旅へと出発した。夏至の光を求め、北欧のフィンランド、バルトの国々ではラトビア、エストニアを巡る旅路へ。
二十四節気のひとつとして知られている「夏至」の日は、北半球において一年のうちで最も昼の時間が長いとされている。この季節にヨーロッパや北欧で夏を過ごしたことのある人であればイメージできるかもしれないが、「白夜」と言われているように、北へ行けば行く程、太陽は沈むことなく、大地は光線に満ち溢れていた。
フィンランドでは、森や湖を散策し、眩しい新緑を見上げながら、素足で草の道を歩いた。近年、日本でも人気の高まっているフィンランドのサウナには千年以上の歴史があると言われている。僕も白樺の若枝を束ね、互いの身体を叩き合い、身を清め入浴した。身体を叩くことで、樹皮や葉っぱに含まれている成分を肌に浸透させるという効果もあるようだ。そして、サウナで体が温まったら、湖へ飛び込み…これを繰り返す。まさに太陽の元、自然と戯れ、心身を癒すのだ。
その太陽だが、自然信仰を受け継いできた北欧やバルトの人々にとっては、古の時代から神々を象徴する存在でもあった。夏至の当日に訪れた小さな村では、夕方になると人々が集まり、先人たちの手で長きに亘り守られてきたオークの樹(柏の樹)を囲み、手を取り合って、歌を口ずさみ、夏至を祝福する姿があった。また、列をなす人々のなか、女性たちの頭には、昼のうちに摘んでおいた草花で編まれた花冠が飾られ、男性たちのなかには、オークの葉で作られた冠を被る者も見られる。これらは、陽光によって最も力を蓄えた植物を摘み取り、身に飾り、清めることで一年を通じて無病息災などを祈願するという習わしであるという。それは、私たち日本人の心にも通底する思想に見受けられ、遠い国の慣習とは思えなかった。
夏至の光を浴びて、湿原の小道を通り、その先に広がる森で朝まで過ごした日、夏の短い月光を見た。霧の立ち込めるなか、過ぎ去っていく青白い時間。遠くには陽光が迫ってきている。朝を告げる鳥たちのさえずりとともに、夜は明けていった。
取材協力:CAITOプロジェクト(田園ツーリズムプロジェクト)
機材協力:フィンエアー
津田直(つだ なお)
写真家。1976年神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年より多数の展覧会を中心に活動。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。大阪芸術大学客員教授。主な作品集に『漕』(主水書房)、『SMOKE LINE』、『Storm Last Night』(共に赤々舎)、『SAMELAND』(limArt)、『Elnias Forest』(handpicked)がある。
http://tsudanao.com
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