Specialコンテンツ第6弾は、世界各地を旅をしながら、写真家として活躍されている石川直樹さんの登場です。
冬の北海道(札幌)の作品をご覧ください。
雪のある風景
石川直樹
北海道札幌市。除雪された雪の堆積場を撮影した。冬のあいだだけ市の郊外に次々と姿を現す巨大な人工の雪山は、はじめて北の地を訪れたときから気になる存在だった。
雪が降り続いた日の夜、友人の部屋の寝床でぼんやりしているとどこからともなくエンジン音が聞こえてくる。はじめは耳障りだったが、冬に何度も何度も滞在を繰り返しているうちに、あの唸るような音にも慣れた。たとえ暖かい布団の中にいても、除雪の音が冬の札幌にいることを実感させてくれる。
除雪車は昼も夜も休みなく稼働し、雪を運ぶトラックはひっきりなしに街と堆積場を往復していた。人工の山は冬が深まるにつれて拡張し、あるときを境にして溶けはじめ、やがて跡形もなく消えてしまうのだ。そして、春が来る。
長野県の最北端に位置する豪雪地帯、秋山郷の写真も入っている。マタギの家を訪ね、熊の胆や熊の毛皮を見せてもらった。彼らは雪との付き合い方を誰よりもよく知っている。。
自分の生地である東京に雪が降った夜も、カメラを片手に出かけた。見慣れた街が、わずかな雪が降っただけで一変する。捨てても捨てても降り続ける雪の多さに辟易する札幌や、交通が寸断され陸の孤島になるほど大雪が降り積もる秋山郷に比べたら、東京でごくたまに降る雪の量など、取るに足らないものだ。それにも関わらず、テレビのニュースなどで東京に雪が降ったことをことさら大きく取り上げる。雪国に暮らす人から見れば笑ってしまうような積雪量でも、雪に対する免疫がなく、環境の変化に慣れていない都市の住人にとっては、生活の在り方を変えてしまう一大事だろう。
日本列島における、人と雪との関わり方は多様だ。人里離れた山奥に降り積もる雪ではなく、人と雪の交わる接触領域を撮りたいと思い続けてきた。今回の写真群は、そうした自分のライフワークのほんの一部である。
石川直樹
1977年東京生まれ。写真家。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により、日本写真協会新人賞、講談社出版文化賞。『CORONA』(青土社)により土門拳賞を受賞。著書に、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』(集英社)ほか多数。最新刊に、エッセイ『極北へ』(毎日新聞出版)、写真集『この星の光の地図を写す』(リトルモア)など。都道府県別47冊の写真集を刊行する『日本列島』プロジェクト(SUPER LABO×BEAMS)も進行中
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